【CBT体験記②】うつ病の経過を改めて認識した──“今の自分”を見つめ直すきっかけに

こころと向き合う

私は、小学校教員として約20年勤め、2025年3月末に退職しました。

その数年前から、うつ病によって休職をしており、現在は静かに自分と向き合う日々を過ごしています。

約30年前の大学時代に心理学専攻をしていた自分は、うつ病の経過を学んでいたと思います。

ただ、自分自身がうつ病と診断され、その図を当事者として改めて見つめ直す日が来るとは、当時は想像もしていませんでした。

認知行動療法(CBT)の初期セッションでその図を前にしたとき、私は「今の自分はこのあたりにいるんだな」と状態を客観的に捉えることができました。

それは、ほんのわずかではありますが、心に余白をもたらす体験でした。

前兆期~急性期──心身が限界を迎えるまで(※①・※②)

(※CBTプログラムで使われた資料を参考に、改めて作成しました。)

CBTの心理教育セッションで示された「病気の経過図」には、病状の進行が4つの段階に分けて描かれています(※①前兆期、※②急性期、※③慢性期〈消耗期〉、※④回復期)。

振り返ると、前兆期(※①)にあたる時期、私は少しずつ心身の不調を抱え始めていました。

ずっと心身ともに疲れが続き、メニエール病によるめまいと耳鳴りにも悩まされるようになっていました。

「何かがおかしい」と感じながらも、仕事を休む決断はできず、「自分が休んだら周りに迷惑がかかる」と無理を重ねていたのです。

そして迎えた急性期(※②)。私はある朝ついにベッドから起き上がれなくなりました。

妻の勧めで受診した耳鼻科から診断書を書いてもらい、年末には1週間の病気休暇を取りましたが、年明けの職場復帰を目前に心身が完全に崩れ落ちてしまったのです。

仕事に行かなければならない妻の代わりに、実家の親に付き添われて心療内科へ向かった私は、自分の状況を説明することすらままならない状態でした。

診察室で医師に「典型的な鬱の症状ですよ」と告げられたとき、張り詰めていた何かが切れ、思わず涙がこぼれそうになったのを覚えています。

それまで自責の念でいっぱいだった私は、「これは怠けでも逃げでもなく、病気なのだ」と初めて実感し、救われた気持ちになりました。

慢性期(消耗期)──言葉を失った時間(※③)

その後、休職に入ってしばらく経つと、症状が少し落ち着く代わりに慢性期(※③)、いわゆる消耗期の状態が続きました。

急性期の峠は越えたものの、心のエネルギーは底を突き、何をする気力も起きない毎日でした。

実際、休職開始から最初の数ヶ月間のほとんどは布団の中で過ごし、朝家族を送り出してから午後までひたすら眠り続ける日々が続きました。

たまに体調が良い日があっても散歩に出るのがやっとで、翌日は決まってぐったりと動けなくなります。

「今日も何もできなかった……」

自己嫌悪の思いが募るばかりで、出口の見えないトンネルの中に独りでいるような感覚でした。

特につらかったのは、自分の状態を言葉にできなくなっていたことです。

普段ならできていた感情の言語化が、どうしてもうまくできない。

きっとうつ病の症状が今よりもひどくて、脳が正常に働かなくなっていたのだろうと思います。

わかっていても表現できないもどかしさ、伝えられない孤独が、心の奥に重くのしかかっていました。

しかし、CBTのセッションでこの段階を「慢性期・消耗期」として図示されたものを見たとき、私はハッとしました。

「動けず、言葉にできないのは、この時期には当たり前のことなんだ」

と気づいたのです。

これは病気のプロセス上、必要な休息の段階なのだと知り、心がふっと軽くなりました。

回復の道すじを見たとき(※④)

この後に回復期・安定期(※④)が続きます。

「このトンネルにも、ちゃんと出口がある」——そう思えたことで、わずかですが希望が芽生えていったのです。

病気の経過を理解し客観視できたことで、私の心には小さな変化が生まれました。

自分の状態を“俯瞰して”捉えることで、「今の自分」に対して以前より優しくなれた気がします。

もちろん、不安や焦りがゼロになるわけではありませんが、「いつかきっと良くなるかもしれない」と穏やかに信じられる瞬間が、以前より増えました。

CBT初期のこの心理教育ワークを通じて得られた気づきは、私にとって大きな一歩となったように思います。

最後に

この記事を読んでくれているあなたがもし、

「自分の今の状態がわからない」「いつまでこの状態が続くのか不安」と感じていたら、

ぜひ一度、うつ病の経過や回復の段階を見てみてください。

そして「今はここかも」と思える場所を見つけてみてください。

それだけで、少しだけ心の荷物が軽くなるかもしれません。

焦らなくていい。波があるのが自然なんですから。

前回の〖CBT体験記①〗“考え方のクセ”に気づいたときのこと では、CBTに取り組むきっかけや、自分を責めてしまう思考パターンに気づいた体験を綴っています。

まだ読まれていない方は、ぜひそちらもご覧ください。

コメント